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僕が僕であるために

まともな日常

 先週の金曜日、僕のチームが手がけていた、自主企画ドラマの発表会が行われた。10月下旬より制作をはじめ、発表の数日前まで微調整を行っていたから、この日は少し不思議な気持ちでいた。まだこの後も、「このカットの画角がイマイチ」「ここ、音声調整忘れてる」なんて言葉が飛び交う現場で、自分がせっせと動き回っている感覚でいたから。いろいろな予定を犠牲にしていたのは明白だから、「肩の荷がやっと降りた」というのは間違いないが、今まで数ヶ月当たり前だった生活が、明日から一切無くなってしまうことは、どうしても信じられなかった。

 

 制作総括を担当した僕は、映像について真剣に学んだのは大学に入学してから、の「ど素人」であった。それまで、委員長活動などで人をまとめることには長けていたかもしれないけれど、シネマカメラをはじめとする機材を触ることには慣れていない。ドラマは見ることはあっても、真剣な分析をしながら見たことは一度もない。リーダーに他薦されてしまった時、なぜ僕が選ばれてしまったのか訳が分からなかった。けれど、そう決まった瞬間には、もう自信はあった。「何か大きなプロジェクトを手がけてしまうことになったみたいだけど、きっと大丈夫でしょ」。深刻に考えず、気負いせず、皆が悩み詰めているときも、ひとり外から楽観視できる存在になろうと、あえて意識的に努力した。

 けれど、「もしかしたら、自分がいなかったほうが、もっと物事が円滑に進んだのではないか」と、何度も考え悩んだことはあった。「一歩引く」という目標を達成したばかりに、自分がどのポジションにもつかず、貢献をしている実感がわかなかったのだ。自分の指揮したチームが上手くいかなかったことがあると、すべて自分の責任だと感じてしまっていた。実際に、グループ外の友達に深夜、悩みをLINEで飛ばしたこともあったし、自分が総括という立場に就いてしまったことをひどく後悔したこともあった。もっと自己表現をしやすく、ワガママが通るポジションでこのチームに貢献したかったと思っていた。

  でも、年末年始はそんな心配も無用であった。編集の補助として、多い時は最大5日間友達の家に泊まり込みで、ひたすらMacBookと向き合っていた。自分は「MA(Muluti Audio)編集」の担当で、アフレコしたセリフを違和感なく映像に挿入するのが役目であったが、最終的にはカット割り、映像の色にも口を出すことになった。一人が寝ているときに、もう一人がパソコンをいじったり、もしくは、自分一人でオールで編集し、仮眠をとらずに2限から授業に出席していたり、と無謀なことをたくさんしていたけれど、苦に感じたことは一度もなかった。それは、単純にその作業が楽しいから、そして、前述した通り「自分が貢献している実感」を十分に得ることができたからだろう。

 

 そうして、ようやく完成したものを皆で見た発表会当日、僕が尊敬している4年の先輩方や、担当の教授からのコメント発表があった。「この短期間でこれほどのクオリティが出来上がるのは、正直驚いている」「画角、音声がすごくいい」ひとつひとつ噛みしめているとき、ようやく実感できた。自分は見えないところで活躍していたのかもしれない、結果を急ぎすぎて落ち込んでいただけだったのかもしれない、と。結局最後は「音声編集」という役割で、「やっている実感、チームに貢献している実感」を直接的に得ることができたが、それ以前も僕は企画担当として、ここまでのものに仕上げる最初段階を取り仕切っていたのだ、と。

 

 企画、脚本、演出、撮影、編集、録音、演技すべてを自分たちで行う、いままで僕が経験したことのなかった本格的な「制作」は、僕をすっかり成長させてくれたと思う。楽観的に、一歩離れた立場で見る姿勢の大切さ。結果を急ぎすぎて、落ち込まないよう気をつける精神。ドラマ制作という、プロジェクトのノウハウ。個性を遠慮なく出すということ。そして、短い時間ではあったが、これほど夢中になれたことはなかったと、胸を張って言える。映像の大原則も撮影手順も何も知らない素人たちが、15分以上のまともな映像を、この3ヶ月でつくれたことは、真面目に「奇跡」だと思っている。

 

 このチームが存続するか、解散するのかはまだ不明。けれど、このプロジェクトを卒業し、これ以外の何かのプロジェクトを始めるのは事実(実際、また他のことに手をつけはじめている)。その時せめて、この制作で学んだことは、見失わないように気をつけようと思う。「僕が僕であるために 勝ち続けなきゃならない 正しいものは何なのか それがこの胸に解るまで」。尾崎豊の「僕が僕であるために」の歌詞に、励まされている。チームの皆にも、改めて「おつかれさま」と「これからもがんばっていこう」という言葉を贈りたい。